小規模保育園と定員60名以上の園での働き方のちがい、メリット・デメリット
保育所は大きく認可保育園と認可外保育園に分けることができ、さらに事業主体や運営規模によって、公立保育所や私立保育所、事業所内保育園、小規模保育園、あるいは企業主導型保育園などに細かく分けることができます。ひとくちに「保育園」と言っても、その実情はさまざまなわけです。
「保育園で働いています」という人がいたとき、0~5歳児までを受け入れているいわゆる一般的な保育園を想像するかもしれませんが、よくよく話を聞いてみると、企業が設置する保育施設で0~2歳児までの従業員の子どもや地域の子どもを受け入れている事業所内保育園で勤務しているのかもしれません。
そもそもこのように保育所が細分化されたのは、2015年度に制定された「子ども・子育て支援新制度」によるものです。待機児童問題の解決を目指して子どもの受け皿を増やそうと、助成金を受けられたり厚生労働省の認可が受けられたりする保育施設が新設・拡充されました。認定こども園や小規模保育園、事業所内保育園がそうです。
なかでも小規模保育園は、待機児童問題の解決の一助を担っていると言われています。
その小規模保育園と定員60名以上の保育園の働き方はどのようにちがうのか、それぞれのメリット・デメリットと一緒に解説していきます。
その前に、そもそも小規模保育園はどのような保育施設なのかを知っているでしょうか。
小規模保育園とは
小規模保育園とは、一言で説明するなら「0~2歳児までの子どもを受け入れる定員19人以下の保育園」です。
2015年の子ども・子育て支援新制度が施工されるまでは、定員20名以上の保育所でないと国の認可がもらえなかったわけですが、地域保育型事業のひとつとして国の認可が受けられるようになりました。助成を受けながら運営することができるようになり、またビル内などでも開園できるので土地が限られている都市部でとくに多く開園されており、2016年4月1日時点で日本全国に2,429件設置されています。
待機児童の9割は、0~2歳児。小規模保育園は、すでに待機児童問題の解決のために大きく貢献してはいますが、開園のハードルが比較的低く、個人から自治体まで多様な主体が今後も参入することで、引き続き待機児童問題解決のための一助を担うことが期待されています。
小規模保育園と定員60名以上の保育園の働き方のちがいは?
小規模保育園がどのような保育施設か分かったところで、定員60名以上の保育所との働き方のちがいについての説明です。なかには保育施設によるものもありますが、「その傾向にある」という働き方のちがいを6つにまとめました。
1.以上児の保育ができるか
これは受け入れる年齢層が異なるので当たり前ではありますが、具体的にどういうちがいがあるのかという点を説明していきます。
0~2歳児では、保育活動の前に説明をしたり手本を見せたりしても、それを理解して活動ができるということはないです。外遊びでは草木を口に入れようとしたり、積み木を人に向かって投げてみようとしたり、想定外なことが起きるのは前提として考えて、常に安心安全に保育時間を過ごせるよう目を配らせなければなりません。
一方で、3歳以上になると、はさみを使うのが初めての子でも「はさみは人に向かって投げる物ではない」と理解できている子が大半です。使い方を説明したり手本を見せたりするとある程度理解でき、得意不得意による個人差はあっても、保育士が適切に介入することで一人でも作業を進めることができます。0~2歳児クラスのように、月齢差によって活動できない子がいるということはありません。
つまり、はさみや絵の具の使い方など物の適切な使用方法が理解でき、体力や集中力が高い以上児の保育活動は、製作活動に限らず運動遊びや楽器遊びでも保育活動の幅が広がります。小規模保育園ではできないような保育活動を行うこともできるということです。
けれどもそれは、幅広い年齢の子どもを相手にする定員60名以上の保育所では、保育知識やスキルがその分求められているということでもあります。
2.より家庭的な密な保育ができるか
これも想像しやすい点とは思いますが、小規模保育園では子どもの数は最大でも19人。ひとクラスの人数も少ないので子どもの発育や生活事情に合わせたよりきめ細やかな保育ができるうえ、保護者との関係性も築きやすいです。
たとえば、「保育活動で壁面に飾るための製作を行う予定だったけれども、欠席している子や通院して遅れる子がいて保育活動に参加できない子がいるため、その保育内容は全員出席する日にできるよう散歩に変更する」など。人数が多い保育園の場合、数人のために予定を変更することは難しいですが、小規模保育園では数人でもクラスの半数を占めることになり得るので、臨機応変に柔軟に対応することが求められます。
保育活動、排泄、給食、片付け、お昼寝……と時間に追われやすい保育士の仕事でも、小規模保育園の場合、人数が少ない分片付けや排泄の時間を要さず、マンツーマンの時間がとりやすく落ち着いた保育ができます。
保護者との関係性が築きやすいのも小規模保育園のメリット。誰が何をして過ごしたのか、一人ひとりとじっくり接することができるぶん、どの保護者にも一日の様子を伝えられるので信頼が得られやすい傾向にあります。
3.退園後のアフターフォローが行われやすいか
小規模保育園では、3歳児からの受け入れ皿が見つからずに待機児童となってしまうことがないよう、近所の保育所から提携園を探すなどしてスムーズな退園後の預かり先の確保に努めます。
5歳児まで受け入れる定員60名以上の保育所ではその必要がありません。そのかわり、卒園するときに入学先となる小学校へ、配慮すべき特別な事情がある子どもに関しての情報を共有することがあります。また、卒園後も夏祭りや運動会の園行事に招待したり、反対に小学校の運動会に顔を出したりして、必要なときは卒園児やその保護者の子育て相談に応じるなどアフターフォローも行います。
そのため小規模保育園よりも長い付き合いになりやすく、「私も保育士を目指したい」という園児の進路に影響を与えることも。大げさかもしれませんが、自分の仕事が誰かの人生に影響を与えるかもしれないというのは、5歳児まで預かる保育所ならではのメリットです。
4.職員間の連携がとりやすいか
職員間で連携がとりやすいのは、職員の人数も少ない小規模保育園です。保育士の仕事は、報告・連絡・相談が最も大事なことだと新卒保育士のころに皆よく言われるように、職員間の連携は適切な保育や保護者との関係構築のためにも非常に大切なことです。
よくあるのは、たとえば、「保護者から聞いた連絡事項をA先生には伝えたけど、A先生と同じクラスを担任しているB先生には伝えていなかった」ということ。クラスの担任間で情報共有できていれば済む問題ですが、常に子どもを相手にしているためタイミングがつかめなかったりどの情報をどこまで伝えておくといいのか分からなかったりと、職場に慣れるまでは難しく思うことでしょう。小規模保育園では1,2歳児クラスだと1人で担任をするところも多く、そのような行き違いが少なくて済みます。
その一方で、職員間の関係性の距離が近くなりすぎたり、関係構築できないと逃げ場がなくて仕事に支障をきたしたりすることも。その点は、難点だと言えるかもしれません。
5.他のクラスの園児まで把握した対応ができるか
これは、先述の「2.より家庭的な密な保育ができるか」という点に通ずるところでもあります。受け入れ人数が少ない小規模保育園では、担任をしている自分のクラスでなくても子どもの生育歴や家庭環境を把握しやすいです。
小規模保育園の場合、「噛みつき行動が増えている」「お漏らしをすることが多くなった」など、そういった気になる行動は他クラスの子であったとしても目に止まりやすく、また職員間で情報を共有しやすい環境にあります。
ある子どもが他の子へ噛みつきそうになり担任が「危ない」と注意したら、他クラスを担任している保育士は様子を見ながら子どもへフォローするなど、小規模保育園では1人で担任することが多いので他クラスの職員にも頼りながら子どもの自己を形成していくことが重要です。保育士が一人で抱え込まないようにするだけでなく、子どもが担任以外にも安心して甘えられるように努めることで、問題をクラス内で留めないようにします。
定員60名以上の保育所の場合は、2歳児まではクラス担任が複数いるので、その担任間で役割分担しながら子どもと関わることができます。
6.行事が充実しているか
小規模保育園は、定員60名以上の保育所と比べるとどうしても行事の数や質が劣ってしまいます。その理由は2つ。1つは、0~2歳児未満で発表できることや集中力、体力が限られているためです。2つめは、そもそもの人数が少ないので行事があっという間に終わってしまうという理由です。
園全体の行事として代表的なものに運動会や発表会がありますが、演目の時間も演目の間の休憩時間も短く、子どもたちの負担が大きくなってしまうことが懸念されます。また、保育士主導で行事を執り行うことになるので、どうしても盛り上がりに欠けてしまいます。
とは言え、最近では、子どもたちの貴重な保育園での姿や成長を保護者に披露しようと、複数の小規模保育園が合同で行事を実施していたり親子レクリエーションという新しい形で行事の実施を試みたりしているところも多くあります。
小規模保育園で働くなら、行事が充実しているかという点もぜひチェックしてみるといいでしょう。
小規模か大規模か、未満児までの受け入れなのか5歳児までの受け入れなのか、その2つが違うと「保育所」でも環境や働き方が違うことが分かったと思います。
どの点も、一方の保育施設でメリットでもあれば他方の保育施設ではデメリットでもあります。じゃあ何を基準に就職先を考えたらよいのか、それぞれのメリットとデメリットを次の項目でまとめました。
それぞれのメリットとデメリット
◆小規模保育園
(メリット)
・より家庭的な密な保育ができる
・職員間の連携がとりやすい
・自分のクラスに限らず保育園全体の子どもを把握できる
・他クラスの保護者でも関係性が築きやすい
・少ない人数や1人で担任をするため、自分がやりたい保育活動を行いやすい
(デメリット)
・行事が充実していないため、園生活のメリハリに欠ける面がある
・職員間の関係性の距離が近くなりすぎたり、関係構築が難しいと仕事に支障をきたしたりすることもある
・1,2歳児は一人で担任することが大半のため、保育活動や記録などクラス運営を一人で行う必要があり負担が大きい
◆定員60名以上の保育所
(メリット)
・0~5歳児まで幅広い年齢の保育ができるので、保育スキルや幅広い知識が求められ、またそれらを高めることができる。
・卒園後も長く関わることができる
・行事が充実している
・2歳児未満は複数担任のため、保育活動の準備など一人で背負わずに担任間で役割分担しながら進めることができる
・職員間の人間関係で悩むことはあっても、人数が多い分完全に孤立することはほぼない
(デメリット)
・延長保育や早朝保育を利用しない他クラスの子どもであれば全く接点がなく分からないこともある
・時間に追われやすく、小規模保育園よりも一人ひとりと密な関わりができない
・職員人数も多いため、情報共有の徹底が難しい
どちらの施設の方が働きやすいか、人によって異なるため一概には言えません。
自分が保育士として何を大切にしているのか、理想の保育士生活はどのようなものか、保育士としてのキャリアを長い目で見てどのように考えているのか、この3つを考えるだけでも向いている保育施設がどのような施設か見えてくるでしょう。
タイミングやご縁があった保育施設で実際に働いてみて、そのなかで自分の向き不向きややりたい保育、なりたい保育士像が見えてくるかもしれません。また保育士専門エージェントのサポートが受けられる人材紹介会社を利用し、客観的な意見をもらうことも一つの選択肢として頭に入れておくといいでしょう。
いずれにしても言えるのは、情報を得ることは大切だということ。就職・転職活動は、情報をたくさんもっている人の方が有利です。ここでの内容も情報の一つとしてしっかりインプットし、就職・転職活動に役立ててみてください。