衝撃を受けたモンスターペアレント
「モンスターペアレント」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。
「モンスターペアレント」とは名前の通り❝モンスターのような両親❞のことを指し、世間一般の常識を超えた不条理なことを要求する保護者のことを言います。
「子ども同士の喧嘩に過剰に介入する」
「自分の子どもの配置や衣装など行事に口をはさむ」
「自分の考えが絶対で、クラスや園全体にも影響を与えようとする」
保育園では、自分が担任していない他クラスの保護者を含むさまざまな保護者と接するので、長く勤めているとモンスターペアレントと言われるような保護者と接することもあるでしょう。モンスターペアレントまではなくとも、対人の仕事をしていると苦情はつきものです。
苦情を受けた時にどのように対処すると良いのか、これまでの対応を振り返りながら今後の保護者対応に役立てられる苦情対処法を学んでいきましょう。
普通の苦情と不条理な苦情の違いとは
保護者からの苦情は、
・子どもに関するトラブル
・自分自身の子育ての考えと保育園の考え方の相違
この2つによるものがほとんどです。
いずれも自分の子どものことを想うあまりに、保育園やトラブルの相手に対して「なぜ?どうして?」「こうあるべきなのに」と、自分の考えや理想を無意識に(稀に意図的な保護者もいる)押し付けようとする保護者がほとんどです。
例えば、「子どもに日焼けさせたくない」という保護者の意見は、最近では珍しくありませんが、「戸外活動の前に日焼け止めを塗ってほしい」または「子どもにUVパーカーを着用させて欲しい」という要望ではなく、「戸外活動は、紫外線の量が少なくなる夕方5時以降だけにしてほしい」と他の園児の活動にも影響を及ぼすような不条理な苦情は、苦情解決までにかなりの時間を要することになります。
実際に合った酔っぱらった保護者からのクレーム
筆者が勤めていた保育園で実際にあったクレームです。
ある母親が園児を迎えに来た時に、担任保育士が「今日はお友達と喧嘩したけれど、自分から『○○したのはいけなかった』と言って、自分で悪かったところを謝ることができていたんですよ。おうちでも褒めてあげてください。」と良い報告として保護者へ伝え、親子もそのまま帰宅しました。
しかし、そのお迎えから数時間たった閉園間際に、帰宅したはずの母親が一人で来園するなり、担任保育士を呼んで「さっきの話はなんや!」と怒鳴り出しました。保育園には他の園児がまだいたので別室に通し、担任保育士と他の保育士の計2名で話を聴くこと1時間…。話してすっきりしたのか「帰ります」と帰宅しましたが、報告を受けた主任保育士が翌日に改めてその母親と時間を設けて話をすると、「酔っぱらっていて言い過ぎました。」と謝罪があった、という内容です。
母親の話をさらに聴いていくと、園児の父親である夫や実の両親との関係性が悪くなっていたことも分かり、ストレスが高まっていたことが分かりました。
苦情に隠された本当のニーズと保育士の役割
苦情を言う保護者の中には、このケースのように家庭や仕事など環境の変化や多忙な生活スケジュールからくるストレス過多が背景にあることは珍しくありません。苦情の表面的な部分を見るのではなく、そこに隠されたニーズを掘り起こすことも子育て支援を担っている保育士として重要な責務だと言えるでしょう。
保育園は福祉サービスを必要とする人が利用する「福祉施設」であるので、「来たくないなら来なくていいですよ」とは言えないし、利用者側からしても「合わないから来るのを辞めます」と簡単には言えません。
だからこそ、日頃からの関係構築や苦情や要望が小さいうちに出しやすくするシステムの構築が非常に要となるのです。
全ての保育園で苦情解決の体制を整えている
それは、法律によっても明示されています。
社会福祉法第82条では、「社会福祉事業の経営者は、常に、その提供する福祉サービスについて、利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない。」として努力義務が示されています。
また、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第14条の3に「児童福祉施設は、その行った援助に関する入所している者又はその保護者等からの苦情に迅速かつ適切に対応するために、苦情を受け付けるための窓口を設置する等の必要な措置を講じなければならない。」として措置を講じる義務も明記されています。
これらの法律を基に、苦情があった際にどのように対処していくのか、保護者や地域住民などでも分かりやすいように全ての保育園で苦情解決システムについて保育園の掲示板等に掲示していたり、ホームページに載せたり、年度初めに保護者に配布したりしているはずです。
保育園に勤め始めたら、自分が働く保育園ではどのような役割分担がなされているかを確認しましょう。必ずしも自分だけで解決しようとする必要はありません。適切な人や機関につなぐことも苦情を対応する上で需要です。
厚生労働省の指針では、苦情解決のシステムに
①主任保育士など、事業内容を把握していて相談援助技術のある「苦情受付担当者」
②副園長や園長など、保育園における苦情解決の管理責任者である「苦情解決責任者」
③苦情解決の中立性や透明性を確保するため外部による「第三者委員」
を設置することを求めています。
このシステム内の役割分担に該当しない大半の保育士は、保護者から苦情を受けた時どのような対応をとると良いのでしょうか。
苦情の対処法
1.まずは言い分を受け止める
「お母さんは、そのように感じられたのですね」
「○○くんのことが心配だったのですね」
と、こちらの言い分はひとまず置いて、保護者自身が自分の気持ちを整理できるように、保護者が主張していることをオウム返ししたり言葉を言い換えて気持ちを代弁したりしましょう。
感情のままぶつけてくるようなモンスターペアレントだと、自分が本当は内に対して怒っているのかどうしたら気が済むのかよく分かっていない場合もあります。受容・共感しながら保護者の話を聴くことに努めましょう。
2.非を認めるところはしっかり謝罪する
保護者からの苦情全てに応えようとする必要はありません。また、苦情を言われた事実を考えるあまり、とりあえず謝罪しなければならないという考え方も不要です。
しかし非があると認められる部分があれば、「誤解を招く伝え方をしたことに関して、申し訳ありませんでした。」と、全ての非を認めたと誤解されないように、非がある部分に限定して速やかに謝罪することが大切です。
3・アイ・メッセージで話をする
「私(保育園)は、○○と思っていました」「○○さんにも日頃の保育に協力していただけると、私(保育園)は助かります」のようにアイ・メッセージを活用すると、ヒートアップしている相手でも言い分を伝えやすくなります。
「あくまで私はこうだった」とこちらの姿勢を示すことで、双方の認識に差があったことを確認し合うことができ、「では、これからはどうしたらよいのだろう」話を次に進めやすくなります。
4.二人以上で対応する
主張が激しい保護者や対応が難しい保護者からの苦情には、必ず2人で対応するようにしましょう。苦情の当事者となる保育士と、苦情受付担当者を担うことの多い主任保育士が望ましいです。管理職が介入することで誠意を感じてもらいやすく、「言った」「言ってない」の新たなトラブルを防ぐことにもなります。
苦情を言う=モンスターペアレントではない
筆者の所感としては、モンスターペアレントと言われるような保護者は、数年に1回くらいでしょうか。
保育園は、ほぼ毎日、送迎時や連絡帳などで保護者との関わりがあり、その積み重ねによって苦情に至る前の「要望」「困りごと」の初期段階で解決することができます。逆に言うと、保育園や保育士の怠慢によって、不本意にモンスターペアレントと言われるくらい保護者が出てくることもあり得るのです。
日頃からの密な関わりや保育士の資質・スキルの向上を目指すことで、苦情解決や未然防止においても大きな役割を果たすことが期待されています。