保育士・幼稚園教諭の給与月額9,000円引き上げについて
2021年、岸田総理大臣が保育士の給与を2022年2月から月額9000円引き上げることを発言しました。
この発言を受けて、保育士歴8年の筆者が感じたことを、保育士の現状と共に紹介していきます。
保育士の現状
内閣府が発表している平成29年度保育士及び幼稚園教諭の平均賃金等の実態についてによると、保育士の平均年収は7~8年の勤続で約340万円、月額約23万円となっています。
公立保育園の場合はもう少し給与が高い傾向がありますが、公立は募集人数が少ないこともあり、私立保育園で働く人の方が多いので、今回は私立保育園を基本として紹介していきます。
月額23万円は手取り額ではなく、あくまで控除前の金額なので、税金や保険料などを控除されたあとの手取り額は20万円をきるという人も多く、年収は約300万円程度というのが現状です。
家賃手当などが支給されていれば1人暮らしも可能ですが、家賃手当がなく、家賃も8万円程度かかる場合には1人暮らしをすることも大変になります。
また、家族がいる場合に、保育士の給与のみで家族全員を養うということも困難であるというのが現状で、男性保育士の少ない原因の1つには給与の低さが挙げられています。
筆者の感じたこと
1.本当に9,000円引き上げられるのか
まず率直に感じたことは「本当に1人に対して9,000円支払われるのか」ということです。
厚生労働省が定める人件費の基準は「学年ごとに対する職員配置の人数」となっています。
例えば保育園が0歳児の定員を9名、1歳児を12名と設定している場合、職員配置は0歳児3名、1歳児2名となります。
しかし、中には自治体で保育士の軽減負担のために独自で職員配置を設定している自治体もあります。
例えば横浜市の場合1歳児は子ども4人に対して保育士1名としているため、12名定員の場合保育士は3名となります。
しかし、保育士の数が増えたからといって国から人件費が追加支給されるわけではありません。
つまり、職員配置によって計算されて1人9,000円分引き上げされたとしても、それ以上の保育士が園で働いていた場合には9,000円の引き上げが困難になる可能性があります。
また、度々問題に上がる「経営者のみが儲かる」という可能性も考えられます。
本来「委託費の内人件費は8割」という決まりがありますが、保育では弾力的運用が認められているため、実際には人件費に5割、もっと酷いと3割程度しか使っていないという経営者も数多くいるというのが現状です。
1人9,000円上がると言われていますが、給与が上がるということは控除される額も増えるということです。
そうなると、実際に手取りでいくら増えるのかを計算することが難しく、実際には9,000円の引き上げがされていないという可能性があります。
2.給与引き上げの方法
先ほども記載した通り、確かに9,000円引き上げられたとしても、給与に含まれてしまっては控除額もあがり、実際に手取りで9,000円給与が上がるわけではありません。
本来は1年間で、9,000円×12ヶ月=108,000円もらえる計算になりますが、実際には控除額があがるため、100,000円を切ってしまうことが予想されます。
勿論それでももらえるに越したことはないのですが、1年分をどこかの月で個人の口座へ振り込みなどに出来ないものかと思ってしまいます。
例としてあげるなら、「2022年4月1日~2023年3月31日まで在籍していた保育士に対して2023年4月末日に108,000円を口座へ振り込む」など。
コロナ渦での子育て家庭への給付などの経験から、不可能ではないように感じます。
実際に神奈川県の厚木市では「あつぎ手当」という厚木市内の保育所で働く主任以下の保育士・保健師・看護師に対して、年間1人6万円を口座振り込みにて支給するという助成を行っています。
このように口座振り込みにすることで確実に1人108,000引き上げることが可能になります。
給与自体を引き上げるのではなく、助成というかたちで口座振り込みにしてもらった方がわかりやすく年間所得額が増えて良いのではと感じました。
3.配置基準の見直し
こちらも最初に紹介した通り、人件費は配置基準によって決められており、
年齢 | 子ども:保育士 |
0歳児 | 3:1 |
1・2歳児 | 6:1 |
3歳児 | 20:1 |
4・5歳児 | 30:1 |
とされています。
ただし、実際には0歳児クラスでは子ども3人を保育士1人で見ていたものが、1歳児クラスになった途端倍の6人を1人で見なければいけないというのは負担も大きく、実際には1歳児クラスでは子ども4~5人に対して保育士1人と定めている自治体も多いです。
また、3歳児クラスも2歳児クラスの際に18人を3人で見ていたのに3歳児クラスになったら1人で見るという過酷な状況のため、子ども15人に対して保育士1人と定めている自治体も多いです。
自治体では保育士の負担軽減のために保育士の配置基準を変更しているのに、国は配置基準を変えないというのは疑問に思います。
自治体にどのような配置基準を設定しているのかを聞き取り、配置基準を緩和することで人件費も増え、保育士の給与引き上げにつながるのではないかと思います。
今回の保育士の給与引き上げは保育士確保のための政策であることを考えると、配置基準を緩和して保育環境を整えることも、大切なことなのではと感じました。
保育士は給与が低いですが、子どもの成長を傍で見守ることができるやりがいのある仕事です。
今回の給与引き上げをきっかけに、もっと保育士の労働環境がよくなっていけばいいなと思います。